ジャン・フォートリエ展 国立国際美術館

会期終了日:2014年10月20日

フォートリエ
フォートリエはロンドンで美術教育を受け、1950年代にフランスで展開された芸術運動「アンフォルメル」の先駆者として作品を発表し続けた。アンフォルメルとはフランス語で「不定形」を意味する抽象的な芸術活動のひとつとされている。第二次世界大戦後、ピカソやブラックらによって発展した実存する形のあるものを崩して幾何学的に表現するという抽象表現がマンネリ化し、元々形を持たないものをマチエールなどを強調し表現する新しい抽象表現としてアンフォルメルは注目された。ジャン・フォートリエという名前は現代の日本ではあまり聞き馴染みがないが、昭和の美術雑誌などではしばしば取り上げられていたようだ。現代の西洋美術史の教科書の中でも戦時中の画家として作品が紹介されている。しかし、フォートリエは美術史上でどれほどの重要性を持っているのだろうか。
本展覧会において初期から中期のフォートリエの作品は色彩にしろ形態にしろ暗く陰鬱な印象を受けた。描かれる人物の肩はダラリと下がり、表情はなく、ダークトーンばかりが使用されている。人物以外のモチーフもウサギの皮や羊の頭部というような暗いものが多い。その中でも特に第二次世界大戦中に描かれた連作「人質」は一見何が描かれているか分からないような形であるが、でこぼことした画肌は痛々しく、赤褐色などの濁った不気味な色彩はムワッとした血のにおいを連想させる。
国立国際美術館の展示の仕方も他の作品展の時と比較すると、フォートリエのその暗い雰囲気を大切にしようという配慮がうかがえた。額縁は少し傷みのあるような古い木枠を使用したり、「人質」シリーズの展示には少し入り組んだ入口が設けられ、照明を暗く落とし空間を演出していた。本展覧会ではそのような美術館の配慮も相まって、芸術の文脈の中でのフォートリエだけでなく、戦争という歴史的な文脈からも彼の作品に触れることができるように感じた。
しかし、同時期の芸術運動としてポロックらによるアメリカの「アクション・ペインティング」の方がやはり一般に知名度も高く、それらと比較したときに抽象主義の中で「アンフォルメル」がどのような立ち位置であったかということを本展覧会ではもう少し詳しく解説してほしかったと思う。
また、本展覧会はフォートリエに関する資料も多く設置してあり、中でも個人的に興味深く感じたのは昭和35年発行の芸術新潮のフォートリエ本人が執筆した記事の切り抜きだった。当時フォートリエは日本の芸術界で取り上げられることも多く、日本との交流も多かった。フォートリエは記事の中で京都や奈良を訪れたエピソードを記し、その中でも特に龍安寺の石庭の素晴らしさについて熱をもって語っていた。不定形な物体を仏に見たてることを信仰の本質だととらえ(記事でも述べられていたが龍安寺の石が仏を表しているとは必ずしも言えないが)、本来瞑想の対象である仏に演劇的な仏像のポーズや形態は必要がなく、龍安寺の不定形の石からはその精神性を感じられるとして高く評価していた。龍安寺の石庭が本当にそのような意図をもっていたかどうかは別として、形をもたないアンフォルメルの表現方法と少なからず共通点を見いだしていたのかもしれない。
国も時代も表現方法も全く異なっている両者のつながりを意外にも発見することができたのは、本展覧会の丁寧で細やかな資料収集があってこそである。西洋美術に興味のある方だけでなくとも是非おすすめしたい展覧会であった。

会期:2014年9月27日(土)~12月7日(日)(月曜休館)
時間:10:00~17:00(入場は閉館の30分前)
会場:国立国際美術館

文4回青山