『華ひらく皇室文化 ー明治宮廷を彩る技と美』

会期終了日:2018年10月24日

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今年はどこの展覧会に行っても「明治150年」というのを目にするような気がする。
私が行く展覧会が偏っているのではないかと指摘されれば否定することは難しいが、とにかくそれにちなむ展覧会が多いことは確かだ。
さて、一口に「明治150年」を謳う展覧会のうち特に注目されているのは大きくふたつ。一つは「超絶技巧」や「技と美」をキーワードにするような、帝室技芸員をはじめとする高い技術を持つ人によって制作された作品を中心とするもの。もう一つは「皇室文化」や「宮廷文化」といった政治的な側面や御用調度に焦点を当てるものである。
この展示は主に後者である。しかしながら同時に、その章立てによって前者にも浅からず触れることができるという、一粒で二度美味しいものなのである。

展示は5章立てとなっており、4階から3階へと2フロアに渡っている。
1〜5章まで全体を通した展示の構成をざっくりまとめると、前半には明治維新前後の政治的背景と皇室文化に触れるもの、後半には繊細かつ華やかな鹿鳴館と宮中の調度品など、というおおきくふたつに分けられる。そしてエピローグ的に明治天皇や昭憲皇太后の遺品と大正天皇、昭和天皇即位の際の礼品が並ぶ。
(なお詳しい章立てに関してはホームページに載っているのでここでは割愛する。)
出品されるのは調度品としての家具、衣類などはもちろん、日本画、陶磁器、金工、蒔絵、七宝に染織など、様々なジャンルの作品である。それぞれの第一人者たちが、その技術を皇室のために発揮したことが見て取れる。また、それらの展示からは、鎖国を解いたのちに西洋的な生活様式がだんだんと取り入れられていく様を読み取ることもできよう。
展示の前半では、室内装飾品として絹本に描かれる日本画を配した屏風や、きらびやかな着物、また調度品として、日本古来の玩具類や貝覆いの貝、丁寧に蒔絵が施された碁盤・碁笥などが並ぶ。会場を進むにつれ西洋化が進み、後半では室内装飾品の額や屏風は絵画ではなく染織や金工、七宝で制作されるものが増え、礼服としてドレスが展示される。当時の室内を再現するように肘掛け椅子やテーブルなどが並べられ、また一方で、華やかな装飾がなされる祝宴用の洋食器が当時の祝宴のメニューとともに並ぶ。

会場全体にこうした生活様式の変化が示されると同時に、第4章では帝室技芸員をはじめとする高度な技術力をもった人たちの作品が陳ぶ。
帝室技芸員というと工芸のイメージが強いのは私だけだろうか。「超絶技巧」などと称され明治工芸はいま注目を集めている。しかしながら、絵画のジャンルでももちろんその指定はあった。ここに展示されるのはそういった、第一線で活躍した様々な人々の作品である。多様な作品が見られることで、自分の好きな作品を見つけることもできるし、あまり触れたことのないジャンルに触れることもできるようになっている。
こういう言い方をしていると「雑多に並んでいるのでは」「統一性に欠けるのでは」などと感じる人もいるかもしれないのだが、不思議なことにそんなことは決してない。そもそもジャンルを絞った展示の企画ではなく、明治の皇室に関わるものとして展示がなされているので、多少の不統一性は許容しやすいというのが一つある。また、モチーフや作家、技法などが関連するように並ぶため、ひっかかりを感じることなく鑑賞を続けることができるようになっていた。

満足度が高かったために長々と展示全体の話をしてしまったのだが、出品作からひとつ、個人的なおすすめを紹介したい。
《富嶽図七宝額》。濤川惣助の作である。
濤川惣助といえば、無線七宝という技術を生み出したことで有名である。そもそも七宝というのは、金属器面に金属線で輪郭を取り、釉薬を流し込んで焼成するものである。輪郭線となる金属線の細さや厳密さが、仕上がりの繊細さ、優美さに繋がると言える。その点において大成したのが、濤川惣助とほぼ同時代に活躍した並河靖之である。一方で、濤川惣助はその輪郭線を省くことで、七宝におけるぼかしの表現を極めた。その表現はまるで筆で描いたかのごとき印象である。
濤川惣助の無線七宝は、それまでの有線七宝になかった表現を可能とする画期的なものであった。そのモチーフも日本画の要素を取り入れるようなものが多く、当時から高い評価を受けていた。しかしながら、現在において目にする機会は少ないように私は思う。
今回の《富嶽図七宝額》は、今尾景年の描く日本画《富士峰図》の隣に展示される。同じモチーフで、左右対称ながらも一見似ている画面構成で制作されるこの2作品。素材と技法の違いによって生まれるその印象の差をありありと感じられた。
きっとどう違うのか知りたいと思われる方がいるかもしれない。ぜひその目で確認して見てほしい。簡単には言葉にできるものではないのである。

正直、私は展覧会のタイトルを見たときにあまり興味をそそられなかった。フライヤーを見ても、「ああ明治の宮廷文化か。はいはいキラキラした調度が淡々と並んでるとかでしょ。」なんて冷めた目で見ていた。
しかし実際に足を運んでみると、様々な観点からその時代に触れることのできる展示になっていて、かなり満足度が高かった。内容の充実した展示になっているので、人によって自分なりの楽しみ方を見つけられるのではないだろうか。

 

『華ひらく皇室文化 ー明治宮廷を彩る技と美』
会期:2018(平成30)年10月2日(火)〜11月25日(日)
前期 : 10月2日(火)-10月28日(日)、後 期: 10月30日(火)-11月25日(日)
※休館日:月曜日(祝日の場合は開館、翌日休館) ただし、10月22日(月)は開館
※開室時間:10:00〜18:00 / 金曜日は19:30まで(入室はそれぞれ30分前まで)
会場:京都文化博物館4・3階特別展示室
主催:京都府、京都文化博物館、毎日新聞社、毎日放送、京都新聞
入場料金:一般1,400円(1,200円)、大高生1,000円(800円)、中小生 500円(300円)
※(  )は前売及び20名以上の団体料金。
※上記料金で総合展示とフィルムシアターもご覧いただけます。

 

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3回生 松浪千紘
一言 ひなたぼっこが気持ちいい季節です。