ジブリの大博覧会〜ナウシカからマーニーまで〜

会期終了日:2018年4月27日

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 最近、美術館や博物館の今後のあり方につてよく議論されている。東京オリンピックなどの影響もあってか、「もっとお客さんに来てもらえる展示を」という傾向を取る美術館・博物館は増えているのではないだろうか。例えば、昔から不動の人気を誇る印象派や日本の代表的な国宝をかき集め、確実に集客を得る。またアニメやファッションデザイナーなど、近年ではあまり取り上げられなかったジャンルを扱い、新しい客層を開拓する。展示にフォトブースを設置することは、もう当たり前なのかもしれない。美術館・博物館のこのような態度に、批判的な声もあることは事実だ。だが、いかんせん「ただ研究し、その成果を発表する」だけではなく、展示の「プロデュース力」が更に求められている。

この「プロデュース力」という点において、注目すべき展覧会がある。現在、兵庫県立美術館で開催されている「ジブリの大博覧会」である。本展は東京で役50万人を動員し、今回関西に初上陸した。私は本展に行く前は、「ジブリは国民的アニメなんだから、この展示が賑わうのも当然だろう。」と考えていた。「ジブリ」と名がついているんだから、展示内容の質に関わらず客が勝手に来るに決まっている、いわゆる出来レース展示だ。と偏見じみたことを思っていたのだ。しかし、実際に足を運んでみると、「これは…みんな行きたくなるわ」と感じる、わくわくするようなしかけが散りばめられていた。

★わくわくポイント その①「テーマパークのような世界観のつくり込み」
 会場に足を踏み入れた瞬間、つい「ここはどこだ?」と口にしてしまった。そこは私たちが普段イメージする美術館の展覧会場ではなかった。
 最初に目に入るのは、おしゃれなカフェを模したようなスペースだ。大きくてふわふわしたあの生き物、トトロがカフェカウンターの中にいて私たちを出迎えてくれる。カフェの棚には瓶詰めのどんぐりが置いてあったり、また奥に目を向けるとまっくろくろすけが息を潜めてこちらの様子を伺っていたりと、芸が細く面白い。
本展にはこのような遊び心を感じられるポイントが多い。例えば、次のセクションに向かう際に通る可愛らしい木の飾り扉に小さなトトロがいたり、ふと天上に目を向けると『崖の上のポニョ』のポニョが空を飛んでいる。テーマパークのアトラクションの待ち時間にこういうものをよく見るなあとふと気がついた。このような展示全体の抜かりのない徹底した世界観の作り込みは、本展の特筆すべき点であろう。
私は美術館に来たはずなのに、どうしてジブリの世界にいるのだろう。「トンネルのむこうは、不思議の町でした」と、まるで神隠しにあったかのような気持ちになってしまった。

★わくわくポイント その②「ボリューム満点情報量」
本展は、ただテーマパークのように世界観を楽しめるだけではない。どんなコアなジブリファンでも納得できるのではないかと思えるくらいの膨大な資料をみることができる。
入口のトトロに挨拶をし会場を進むと、歴代の映画ポスターが壁一面にずらっと並んだ部屋にでる。完成されたポスターだけでなく、映画、ラフ、キャッチコピーの資料等が楽しめる。奥にはスタジオジブリの代表取締役プロデューサーである鈴木敏夫の仕事部屋が再現されており、また彼の手書きの資料を交えながら「映画が完成するまで」を非常に細かく紹介している。
圧巻だったのは、ジブリの宣材を紹介するセクションだ。『崖の上のポニョ』のポニョと『猫の恩返し』のバロンの大きなフィギュアが中央に配置され、周囲の壁や天井をぐるっと埋め尽くすかのように歴代の宣材が展示されている。よくこれだけのものを…と感心してしまった。私自身は『借りぐらしのアリエッティ』のドールハウスと『風の谷のナウシカ』に登場する長銃のレプリカに心を奪われた。

★わくわくポイント その③「桁違いのフォトブース」
展示の最後にフォトブースを設けることは、最近はどの美術館も積極的に取り入れている。しかし、本展におけるフォトブースの規模は、他の展覧会とは比べものにならない。
本展では2種類のフォトブースが設置されている。まず1つ目は、展示の最後に設置されている「ねこバス」だ。誰もが憧れたであろう、あの「ねこバス」に実際に乗れるのである。映画と同じく「ねこバス」の目は怪しく光り、こちらを見つめている。乗りたくてたまらなかったのだが、40分待ちであったため泣く泣く諦めた。こんなに待つフォトブースははじめてである。

ねこばス

ねこばス

「ねこバス」に後ろ髪を引かれながら外に出ると、本展の番外編のような展示が続いていた。「スタジオジブリ 空とぶ機械達展」である。まずはじめに、こちらに展示されていたものを見ていただきたい。

巨大飛行船

巨大飛行船

『天空の城ラピュタ』のオープニングでは架空の国である空中帝国の誕生と週末が描かれている。この巨大な飛行船はその空中帝国をモチーフにしたものである。ジブリにおいて「空への憧れ」はテーマの1つでもあるらしく、この展示ではジブリに登場する「空」に関係するモチーフ(例えば『魔女の宅急便』のトンボの自転車、『風立ちぬ』の飛行機など)が科学を交えながら解説されていた。

本展の成功は決して出来レースなんかではない。「世界観のつくり込み」「膨大な資料・情報量」「桁違いのアミューズメント性」。この3つのわくわくポイントがバランスよく調和し、プロデュースされているからこその盛況ぶりなのである。ちなみに、本展はスタジオジブリが自ら企画・制作しており、開催場所の兵庫県立美術館は主催には入っていない。通常の美術館主催の展覧会と本展の趣向が異なるのはこのためであろう。また、東京の「三鷹の森ジブリ美術館」と本展を両方訪れた友人に話を聞くと、本展の方がよりエンターテイメン性が強いようだ。
本展のプロデュース力によって私はまんまと「スタジオジブリ」の世界に誘われ、全力で楽しんでしまった。「展覧会に行った」というよりも、「不思議なわくわくする森に迷い込んだ」という表現の方が近いのかもしれない。おそるべし、スタジオジブリ。美術館・博物館も、見習うべきところが多いにあるだろう。

会期:2018年4月7日(土)~7月1日(日)
会場:兵庫県立美術館ギャラリー棟
開館時間:10:00~18:00  金・土曜日は20:00まで
(ただし 6月1日(金)、2日(土)、8日(金)、9日(土)は18:00まで)
※入館は閉館の30分前まで
主催:読売テレビ、読売新聞社、東映、ローソンチケット
共催:兵庫県立美術館
企画制作協力:スタジオジブリ
後援:兵庫県、兵庫県教育委員会

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4回生 谷岡輝樂々

研究:中原淳一の「少女らしい」ファッションデザイン

最近の悩み:研究室の自分の机の上がえらいこっちゃ。